木桶の表面には無数の孔(あな)があり、そこに桶ごと、蔵ごとに異なる多様な微生物がとりつくといいます。金属等のタンクと異なり、木桶仕込みは時間がかかり、人の手入れが欠かせませんが、木桶で育まれるしょうゆにはそれぞれ独特の個性があらわれます。
戦後、醸造用の桶として温湿度や衛生、品質管理がしやすい金属やFRP製タンクが主流となりました。その影響で木桶製作の機会も減少し、2009年当時、醸造用の大桶を製作できる桶屋は最後の一社が残るのみでした*。一方で2000年頃から、酒やみそ、しょうゆの蔵元から木桶仕込みリバイバルの動きが起こります。2012年にヤマロク醤油5代目の山本康夫さんを中心に「木桶職人復活プロジェクト」が始まり、醸造家自らが鉋(かんな)をとって主導し、各地の職人や醸造家へ輪が広がっています。
この章では木の特性をふんだんに活かした木桶づくりの技術、また百年以上使い続けられる木桶のサイクルを紹介します。
*藤井製桶所(株式会社ウッドワーク)