発酵する子どもたち

オオタヴィン

今、「菌の常識」が、180度変わろうとしています。
次世代シーケンサー(NGS)を使った微生物のゲノム解析によって、人体の常在菌についての研究が画期的に進みました。
人体には、ヒト細胞の総数のおよそ数倍ちかい微生物が棲んでいたというのです。
「腸内フローラ」という言葉はご存知だとは思いますが、腸だけではなく、皮膚にも、口内にも微生物がびっちり共生しています。「あなたの体の9割が細菌」というタイトルの研究書もあるほどです。
親指の指先だけで、およそ1億、日本の人口と同じ数の微生物が暮らしています。
わたしたち人間は、微生物たちからみたら高層マンション、というより惑星のようなものなのです。

そんなに多くの微生物たちは、いったい何をしているのだろうかというと、ヒト細胞と微生物はお互いに連携し合って「免疫」などの大切な役割を担っているというのです。
ヒトの体を構成する体細胞の数は約37兆個と言われていますが、腸内細菌の数は、それよりはるかに多い約100兆個です。膨大な数の微生物たちが、せっせと腸内環境を保ってくれています。
微生物は、コロナのような「ウイルス」とは生命形態が異なる生命体で、病原菌微生物は、微生物全体の数百分の一しかいないといわれています。
ごめんなさい、僕は微生物とウイルスをずっと混同して「バイキン」などとよんできました。
微生物は、“子どもたちの敵バイキンマン”なんかじゃなかったんです。むしろ、私たちを助け守ってくれている小さなヒーローだったんです。これは数百年にわたる「バイキン冤罪事件」なのですぞ。
過剰な消毒は、僕たちの味方である微生物を消し、自然抵抗力を下げる行為なのです。
ねっ、「菌の常識」が、180度変わるでしょ。

ヒトだけではありません。 植物の葉や果実には、エンドファイトという微生物が共生し、その根のまわりには、土壌微生物が集結した根圏がつくられて、植物の根にせっせと栄養を供給してくれているんです。
なんだか、お母さんみたい。微生物が植物を守り育んでいたのです。
畑や田んぼも土壌菌がさかんに働いています。
農薬、化学肥料を使わないオーガニックの畑は、微生物たちの楽園です。
僕は、科学者ではなく映像作家なので、詩的な表現でつぶやきます。
田んぼも畑も、そこで育つ植物も発酵している!

今まで別々にとらえていた「発酵」と「オーガニック農業」のつながりがやっと理解できました。
どちらも微生物が主役だったのです。

僕の2作目の映画『いただきます2 ここは、発酵の楽園』は、こんな目から鱗の世界観を描いた、エンターテイメント・ドキュメンタリー映画です。この映画のなかには、“子どもたちの敵・バイキンマン”に代わって、“子どもたちのヒーロー・菌ちゃん”がアニメキャラで登場するんです。

「オーガニック」を日本語訳したものが「有機」です。
有機的とは、「多くの部分から成り立ちながら、各部分の間に密接な関連や統一があり、全体としてうまくまとまっているさま」。つまり、生命の環・circle of lifeです。
circle of lifeという概念を先人たちは「森羅万象」という言葉で、直感的に理解していたのだとおもいます。海も森も畑もヒトも、菌ちゃんたちが織りなすcircle of lifeでつながっていたのです。

ですから、ヒトだけがこのcircle of lifeから孤立して「健康」に生きていくことはできません。
私たちの細胞は、100%食べたものからつくられています。昨日今日食べた物で、大地や海、circle of lifeにつながっているのです。
私たちの先人たちが「発酵食」を大切にしてきた理由がこれです。畑や果実を発酵させ、食事を発酵させ、自らの腸内も発酵させて健康な生活を維持してきたのです。
現代の子どもたちも、もっと“発酵”して、内から輝くように“発光” してもらいたいなぁ、とおもうのです。

土はふくよかなままに
水は清らかなままに
子らは健やかなままに

美しきものが
地に満ちますように

オオタヴィン

監督、撮影、編集、デザイン、雑用など映像制作のすべてをひとりで兼任することでパーソナルな質感の映画づくりを愉しんでいる。
発酵食・伝統食で自身の体調を改善させた"発酵映画監督”。
「まほろばスタジオ」を主宰し、映画と講演を定期配信している。

https://www.mahoroba-mirai.com/