Brocken 5 / Matsumoto Parco, 2021
Photo: Tooru Tsuji
自然は美しくない。というと奇妙な感じがするけれど、ふと、そう思った。そこに法則を見つけることは可能だけれど、それはあくまでも人が抽出したもので、実際には木の枝は折れているし、完璧な結晶も自然界で見つけるのは困難だ。とても乱雑で、でたらめなのが自然だ。当然、美しさの基準は法則だけではないけれど。
それでも雪の降りた朝の、アルプスを眺め、美しいと感じるのは何故か。それはでたらめが故だと思う。地殻が押し曲げられ、何万年もの雨に削られ、太陽光で増殖する細胞が取り付き、冷えた空気の結晶が降りかけられる。全くでたらめだ。主張も思想もなく、ただそうしている。その余白が私たちに自由という美しさを与えるのだと思う。
無色でさわれず、重力で歪み、かつ無限の彼方まで重力を届ける空間というものは、その余白そのものではないだろうか。空間=余白そのものを知覚可能にしたい。
-視野の外は何色か-というのは子供の頃の疑問で、その頃は自分の見るものが現実だと思っていた。だから視野の外が存在しないということを理解できなかった。透明か、黒か、何か色があるはずだと。いつも同じ眼と脳を使って世界を検知し、いつも整合性がとれているから、それが現実だと錯覚しやすいけれど、あくまでもそれはただ一つのセンサーが見せるものに過ぎない。世界が無限に存在していることを忘れず、人の領域を拡げていきたい。
視野の外は何色か?
千田 泰広