人と人工物の新しい関係をデザインする

山中 俊治
東京大学生産技術研究所教授

私が大学教員になって「美しい義足」プロジェクトを始めてからもう13年になります。プロダクトのデザイナーとしてさまざまな製品開発を通じて「人とモノの関わり方」を考えてきた私が、北京パラリンピックにおけるオスカーピストリウス選手の力強い走りに、未来を感じたのがきっかけでした。彼の走りにおいては、人体と義足は見事に一体として機能しており、人とモノの完璧な関係がそこにあるように見えたからです。
最初はどのような人が義足を作っているのか、日本で必要とする人はどれぐらいいるのか、あるいは義足はどのような構造で、どうやって人の体に取り付けられているのかというような基礎知識も全くないままに、ネットで「義足」を検索する所からのスタートでした。その後、義肢装具士の臼井さんと出会い、走り始めたばかりの高桑早生選手をはじめとするたくさんの切断者たちと交流するようになって、少しずつその実態を知っていきました。
もっとも驚いたことは、義足をデザインしている人がいないということでした。ピストリウス選手をはじめアスリートたちの義足は、走っている時こそ、とても美しく見えましたが、手に取ってじっくり見てみると、手作り感のある作りになっていて、美しいと感じないところも色々あったのです。「もっと美しくできるんじゃないか」そういう思いを臼井さんに伝えるところからプロジェクトは始まりました。多くの人の力を借りながら、いくつかの義足は実用化に至ることができました。今では、美しい義足を目指して仕事をするデザイナーの仲間もずいぶん増えてきたので、先鞭をつけることはできたように思います。
東京大学に移ってからは美しい義足を3Dプリンタで作るようになりました。3Dプリンタを核とする新しいものづくりの研究者として第一線にいる新野俊樹教授と出会って、義足のような手作りの世界で美しいものを作るにはこの技術がとても有効であることを学んだからです。2014年以降の6年間は臼井さん、新野さんをはじめとする、様々な技術者、義足アスリートたちの協力を得て、ソフトウェアから製造方法まで一貫した新しい「美しい義足の作り方」に取り組んでいます。
この度、その成果をGallery A⁴という素敵な場所に展示できることをとてもうれしく思います。関係者の皆様に感謝するとともに、この展示を通じて、新しい「人とモノの関わり方」を知っていただければ幸いです。