先日、椅子の材料を買いに、古い付き合いの材木屋へ行きました。主に山桜材と楢材、ウォールナット材を仕入れに行ったのですが、そのうちの楢材はロシア産でウォールナット材は北米産です。どちらもとても綺麗な木材で、素直で節もなく、自然素材ですが、きちんと管理された文句の付けようのない材木達です。
30年近くそうした材を買い求めてきましたが、今回のように地域材を使っての椅子作りは、ほぼ初めての仕事でした。節もあり癖も強く、使える所が限られます。板材を椅子の部材に切り分ける作業を「木取り」と言いますが、この部分を後脚に…この部分を肘掛けに…と中々悩ましい作業でもありました。私達のような小規模の木工家にはそうした作業も楽しめますが、家具メーカーのように効率を求める物作りでは使いこなせない材料です。
木工家という仕事は、とかく趣味の延長のように捉えられる事も多いのですが、今回のような地域材の活用は私達にとって、とても大事な社会的役割であると思います。
これだけ物に溢れた時代にあって、それでも物を作るということは責任を伴う行為です。
「樹」に向き合い、素材へのリスペクトとともに手加工を施し、暮らしの道具とすること、それが私達の仕事だと考えています。
本展の会期中には、「樹を削る」というワークショップを企画しています。これは展示されている椅子の素材でもある、埼玉県の三富地域の平地林の樹を、ドローナイフという刃物で手加工する体感イベントです。
こうしたワークショップの場を、作り手として一般の方に提供することも私達のもうひとつの大事な役割であると考えています。
木をナイフで削るという行いは、すでにネアンデルタール人が使った石器の多くに木材を削った痕跡が見られるとのことで、ヒトとしての始原的な活動であったのでしょう。
子ども達と何度かワークショップをしましたが、5,6才の子ども達が一時間以上も楽しそうにそして真剣にナイフで樹を削る姿を目の当たりにして、これはまさにヒトのDNAなのだと、嬉しくも安心をしたものです。
私達木工家が今の社会に対して果たせる二つの役割、それを形にしたのが「樹の一脚展」です。