あとがき

岡部三知代 キノゼン編集室 編集長

キノゼン編集室(2018/12/6撮影)

木下直之氏とギャラリーエークワッドのご縁のはじまりのお話。ギャラリーエークワッドは2005年に竹中工務店の文化貢献事業の一環として設立された。設立メンバーは私を含め、設計部の有志であり、美術館経験者がおらず、公的な活動に際し社会性を保つため、アドヴァイザーを招聘し、企画から運営まで、折に触れてご指導を仰ぐこととなった。
以来13年、特にレンズ付きフィルムを使った「100人の撮影会」の企画展では、町をつぶさに歩いて観察することを続けている。隅に追いやられて、忘れかけられた「銅像」や「小便小僧」を発見し、その有り様の当たり前を見逃さず、いつ、誰が、何のために「そのもの」をそこに立たせたのか…と問いかける木下流の「モノと町」の見方をお手本にし、毎年一般公募で集まる100人の方々と一緒に、雨ニモマケズ風ニモマケズ夏ノ暑サニモマケズ巡ってきた。
2015年木下氏は春の紫綬褒章を受章された。そのことをきっかけに、木下氏が、東京大学で率いてこられた文化資源学研究室の教授を退官される2019年3月に照準を合わせて、これまでの氏の「発言」を追い『全集』として見立て、展覧会仕立てにしたいと、大胆不敵にも提案した。
木下氏は臆することなく、いばらの道を承諾してくださった。とにかく楽しくやりましょう!そう、木下氏の視線を通して町を見ることは本当に愉しい。展覧会開始の1年前(2017年12月7日)からWeb上に「木下直之を全ぶ集める」展 を開設した。「今月の一冊」として毎月一冊ずつ著書を紹介し、テーマにまつわる方々より寄稿を集めた。また木下氏が日々気になったもの、考えたことを毎月14枚ずつ、自撮の写真に解説を添え「近くても遠い場所」12か所へといざなった。全国の「股間若衆」の事も忘れていない。膨大な原稿頁は、見事、展覧会オープン日(2018年12月7日)に全章揃い踏みとなったが、それでも木下氏の脳内地図の全網羅は果たせていない。
本展会場は、見世物という形式をとりながら、木下氏の問いかけに追随する様に頁をめくる本に見立てて構成している。「つくりものと作品」「都市とモニュメント」「ヌードとはだか」「戦争の記憶」という章立てから疑問符が湧き上がる。それぞれの事象は、一見して情報として把握できるが、木下氏は簡単に目に見える理解だけにとどまらず、限界まで突き詰めて、その奥に潜んでいる情報をあぶりだそうとする。展覧会を見る方々が、氏の「どっちなんだ」と問う境界線までついて来て下されば本望なのではないか。
木下氏は意図せずして引き寄せられてしまうのか、あるいは本当に崖っぷちが好きなのだ。