ご挨拶
ギャラリー エー クワッド 館長 白川裕信

都内を対象としたレンズ付フィルムによる撮影会「100人の本郷」は今年8回目を迎え、連日の気温が体温超えという酷暑の中、8月4日に開催されました。

撮影対象エリアは南北に本郷通り、東西に春日通りが走り、これを軸に4象限で捉えてみると、北東部分は東京大学本郷キャンパスが中核をなしています。ここは江戸時代に加賀藩上屋敷等があった所で、赤門や三四郎池などにその名残が見られます。またキャンパス内には多くの歴史的建造物やジョサイア・コンドルの銅像などがあり、日本の建築界を牽引した先人たちの足跡を辿ることができます。100人シリーズを初回からご指導いただいている木下直之先生のお膝元でもあります。

本郷地区は、その名に歴史の面影を宿す坂が多く、本郷台地にあるこの地域の地形的特徴になっています。北西のエリアには明治から昭和にかけて活躍した多くの文人の旧居跡があり、南東エリアには湯島天満宮や史跡湯島聖堂などがあります。対象としたエリアは多様な特徴を有し、100人100様の街の姿があぶり出されていました。

中でも「細部へのこだわり」が際立っている写真、或いは「これどこ?」と考えさせられるカットや被写体の魅力を際立たせた、いわば「アングルの発見」と言える写真には強く引き付けられました。「瞬間を捉える」ことも写真の魅力であり、これを陰影のコントラストで見事に表現した写真もありました。26枚を一覧してそのテーマを鮮明に浮かび上がらせる、というこの企画ならではの手法を採られた方もいらっしゃいました。表彰式当日にいただく土田先生、淺川先生の講評も大変楽しみです。

撮影エリアの重心の位置にあたる本郷三丁目交差点角にある「かねやす」は、歯科医であった兼康祐悦(かねやすゆうえつ)が歯磨き粉を売りだして大変繁盛した店で、江戸時代より続いた小間物屋です。1730年(享保15年)の大火の再興にあたり、町奉行(大岡越前守)がここより以南の江戸城にかけての家を耐火構造にさせたという史実があり、「本郷も かねやすまでは江戸のうち」という川柳が残された歴史的結節点にあります。この店が景品として配布した本郷名所案内寿語録(すごろく)は、画家の玉潤の手によるもので、今回の対象エリア内にあった名所が数多く描かれており、明治期の本郷を知るための貴重な資料となっています。これをメインのビジュアル資料として採用させていただき、「すごろく」をモチーフに、展示スペースは六角形を単位として構成し、また新たに現代版双六を作成し、未来への記録としました。

最後になりますが、「写ルンです」をご提供いただきました富士フイルムイメージングシステムズ株式会社様、ご指導、ご協力いただきました関係者の皆様に対しまして、心より御礼を申し上げます。

ツールへのこだわり;デジタル全盛の時代に、敢えて、アナログの「写ルンです」を使うことについて

一過性による真剣勝負と時系列を大切にする。そして誰もが使える同じツールで撮影すること。

デジタルカメラとは異なり、その場での確認ができず撮り直しができないこと。

写した写真はその日の時間の流れを忠実に記録し時系列に並んでいること。

年齢、性別、プロ・アマなどを問わず、皆全く同じ性能のカメラを使うこと。