ごあいさつ

甍の波と雲の波・・・と唱歌に歌われた、見渡す限り瓦葺きの屋根が連なる光景は、なつかしい日本の都市の原風景の一つといえるでしょう。その瓦葺き屋根の歴史を遡ると、わが国に瓦が初めて伝わったのは588年、百済から4人の瓦博士が渡来し、国内で製作された瓦は飛鳥寺で初めて使われたといわれています。飛鳥寺は平城遷都の際に元興寺として奈良に移されましたが、今でも元興寺の極楽堂と禅室の屋根の一部には、1400年前の瓦がそのまま使われています。土を練って焼き上げただけの瓦が、なぜそれほど長い時代を経て使い続けられることができたのでしょうか。

現代に生きる瓦職人の第一人者・山本清一氏は、国宝や文化財の修復工事に関わる中で、長年試行錯誤しながら、古代瓦の研究や復元にも取り組んできました。その結果、瓦の原料となる土、瓦を作る道具、瓦を成形し焼き上げる工程、瓦を葺く工法、それらのどの過程にも、驚くべき知恵と技が込められていることが分かってきたのです。

本展は「千年の甍-古代瓦を葺く-」と題して、形や文様など瓦の意匠造形面だけではなく、瓦を作る技、瓦を葺く技にも焦点をあて、建築という切り口から瓦を読み解き、瓦職人の知恵と技を紹介します。千年の甍の魅力と奥深さを感じ取っていただければ幸いです。終わりに、本展開催にあたり貴重な資料をご出品いただいた皆様、ご後援・ご協力いただいた皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

平成29年8月21日
公益財団法人竹中大工道具館