アメリカ合衆国で最古の高等教育機関であるハーバードは、マサチューセッツ湾植民地の総大会議での議決を経て、1636年に設立された。ハーバードという名称は、1638年に死去した際に蔵書と所有していた不動産の半分を遺贈した、同大学の最初の寄付者でありチャールストンの牧師であるジョン・ハーバードにちなんだものである。今日、ジョン・ハーバードの銅像がハーバード・ヤード内にあるユニバーシティ・ホールの前に立っており、ハーバード大学でおそらく最も有名な史跡となっている。
ハーバード大学には、学位を授与する12のスクールに加えてラドクリフ高等研究院がある。教師1名、学生9名からスタートし、今では学部課程、大学院、専門職大学院を含めると2万人もの学生を擁する規模に成長している。卒業生の数は米国、海外190か国を含めると36万人に上る。
ハーバード大学はケンブリッジとボストンにキャンパスを持ち、学部課程、大学院、専門職大学院を合わせると2万人前後の学生がいる。一般に「ハーバードの学生」と呼ばれるのは、その一部にあたるハーバードカレッジに通う約6,400名の学生を指す。学生は毎年8月下旬にキャンパスにやってくる。
ハーバードカレッジの学生は多様であり、典型的なハーバードの学生とはどんなものか、ましてや典型的なハーバードでの学生生活がどんなものであるかを説明するのは難しい。全米50州、80以上の国々から学生が集まる。都市からも、郊外からも、小さな町からも、農場からもくる。公立校、私立校、そして教区学校からもくる。人種背景、宗教背景、そして経済的地位においてもあらゆる学生がいる。昔ながらの伝統と幅広い学資援助により、ハーバードは誰もが教育の機会を与えられるよう尽力しており、学部生のうち6割以上が何らかの学資援助を受けている。
何時の時代においても、態勢順応主義に圧倒されそうになっている伝統を、力づくでもそこから引き離してあげる、という努力を新たにしていかなくてはならない。In every era the attempt must be made anew to wrest tradition away from a conformism that is about to overpower it. – Walter Benjamin, “Theses on the Philosophy of History (「歴史哲学に関する論文」)” (1940)
デザイン大学院における研究活動の調査的で思弁的な側面は、ウォルター・ベンジャミン氏がいうところの、態勢に順応しやすい伝統を力づくでもそこから引き離すという行為に似ている。設計実践の在来技法を再検討するということは、我々にとっては絶対不可欠かつ将来に希望を託すプロジェクトであり、その努力が物理的環境に変化をもたらす、という認識のもとに取り組んでいる。デザイン大学院は、建築、景観建築、都市計画、デザインといった異なる学問分野を併せ持ち、またアトリエをベースにしたプログラムや設計研究プログラム、博士課程での調査研究を通して、アイディアの交換、交流のための刺激的な環境を提供している。多重性、一貫性、特異性、多様性をもたらす学際的研究を前進させることは重大かつ我々を惹きつけてやまないものである。ハーバード学内の他学部および学外の仲間たちと協力しあいながら、その前進に必要な枠組みを明確にしていくことが我々の責任であると考えている。
我々のプログラムは、伝統や慣習に囚われない、持続可能な未来の構築を目指した社会的側面を持っており、それゆえに倫理的・政治的領域に身を置く。急速な都市化現象、資源不足、天災、人災の余波・残効、世界の富裕国と貧困国間の一向に改善しない不平等など、現代における地球規模問題や環境問題の複雑さには、創造的かつ解放につながるような解が必要なのである。よりよい未来を計画するのであれば、新たな組織的構造、新たなパターン、そして新たな協力形態を創造しなければならない。「今」を再考するのであれば、伝統と、革新・知識・想像との関係を常に較正し続けなければならないのである。
Mohsen Mostafavi ,ハーバード大学デザイン大学院学長