今回、この展示の空間をお借りして、震災直後よりはじめられたコミュニティー復興を支援する活動を通して痛感されている、被災者の混沌とした実情に対して、訪れた方々が、現地に足を運んだという体験をもってもらえることを目指し、「Beyond 3.11 南三陸」展に取り組んだ。舞台は、南三陸町歌津地区馬場中山集落。震災時、土地に根ざした独立自尊のこの漁村集落は、地形的特徴から水に囲まれ、陸の孤島と化した。 援助の手が遅れるとも、集落は一丸となって、助け合いながら一日一日を生きた。
展示内にある、斜面の縁台に靴をぬいで座り、この場所に参加してほしい。この縁台は、海へ開いた場所性や、物理的にも精神的にも安定しない一方で、進まざるを得ない被災者の状況の追体験を引き起こすことを意図している。
縁台の前面には、 かつて住まいがあった浸水地区を模した暗がり、遠方には、豊かな海の幸を育む生業の場である志津川湾への奥行きが目に入る。港、防潮堤や予測される次の津波等に対する不安、複雑性や自分達で決められないという憤り等の思いをくんで、寂しくなって座ってもらえたらと思う。縁台には、この展示を訪れた方々に拾い読みしてもらうために作られた「がれきメモ」や、上から下がる「スカイメモ」、また、 「ガーデンパビリオーネ」建設過程映像が備わる。天井からは、「あの日を思う」映像が映されている。ロビーのバナーは、 MITジャパン3.11イニシアティブが構想する、今後の未来に向けて南三陸町の持続可能性のある復興へあてた「三つの思想」である。
時間の許す限り、この展示の各場所をゆっくりと「体験」し、その背景にある思想が、皆様に伝わることになればいい、と念じている。東日本大震災から3年目を迎えようとしている明日の姿、そして、次世代の姿を考えるきっかけとなってほしい。先が見定められない毎日、目先に差し迫る大きな決断事、今後を担う後継者、そして取りまく自然の姿は、被災者のみ抱える課題ではないだろう。震災をこえて、多くの個人が、なにか自分にできないかと心から感じたことだろう。歳月がたてば、その思いを継続していくことは難しいかもしれないが、私たち一人一人が、ここで再び何かを感じて、もって帰って下されば、と思いをめぐらせる。