『approach』が取り上げた記事には、社会から反響をいただいたものが多くありました。その中でも、記事掲載をきっかけに様々な媒体を通して、その活動が紹介され、現在にもその反響が続いている事例をご紹介いたします。
ナショナル・トラスト運動は19世紀末、産業革命とともに急速に自然が失われるなか、イギリスの美しい自然と歴史的建造物を人々から寄付金を募って買い取り、保護するという、婦人運動家のオクタビル・ヒルなど3人の市民によって「一人の人の一万ポンドよりも、一万人の人の一ポンドずつを」を標語に始められた市民活動である。このイギリスでの活動について木原啓吉氏(日本ナショナルトラスト協会名誉会長)が『approach』(1976年 冬)でその活動を報告した。その記事を見た、当時朝日新聞社の記者であった辰野和男氏が「天声人語」(1977年1月16日)で、この活動を紹介した。ちょうどその時、知床の荒れた原野を修復し、保護する名案はないものか、と暗中模索中だった北海道、斜里町の藤谷豊町長(当時)は、これだ、と膝を叩き「100平方メートル運動」の構想をまとめたという。
それが、現在にも続く、知床半島に残された開拓跡地に森林を再生する運動、「100平方メートル運動の森・トラスト」である。イギリスの土地で始まった小さな活動の種が、『approach』で紹介されたことをきっかけに、北海道斜里町に渡り、アカエゾマツやヤマハンノキなどの植林を進める「原始林復元」活動へと、果実を実らせている。